自己破産をすると官報に破産をした事実が掲載されることになります。しかしながら、官報というものを実際に見たことがない方がほとんどだと思います。ここでは、そもそも官報とは何か?自己破産をした人のどのような情報が官報に掲載されるのかなどを説明します。
官報とは、国が発行している新聞のようなもので、法律や政令・条約を国民に知らせる役割を持っています。掲載される内容は、政府や各省庁の決定事項や人事異動、国家試験に関する事項や競争入札など国に関わる様々な情報で、その中に、自己破産や個人再生の情報も含まれています。官報は行政機関の休日を除いて毎日発行されています。
自己破産をすると、最終的に債務者(破産者)は債務の返済を免除されることになりますが、一方で、債権を回収できなくなる債権者(貸金業者等)には多大な影響を及ぼします。
債権者である金融機関やクレジットカード会社にとっては「自分が貸した相手(債務者)が自己破産をした」ということは重要な情報です。このような利害関係者に対して、債務者の自己破産の事実を知らせて、適切な対応を促して不測の損害を発生させないようにするのが、官報で破産の事実を公告する理由です。
また、一度自己破産をして免責を受けたあと7年間は、再度の自己破産での免責を許可しない(免責不許可事由)と定められているため、官報に掲載されることで、国の公的な書類として記録し、公開する必要があります。
自己破産の場合、「破産手続の開始決定が出た後」と「免責許可決定が出た後」の2回官報に掲載されます。ただし、免責許可と手続きの廃止時期が異なる場合は、3回官報に掲載されることがあります。
官報には破産の手続をしたという事実と、破産者の名前・住所などが掲載されます。基本的には2回官報に掲載されますので、それぞれについて具体的な項目と内容を説明します。なお、同じ自己破産でも、破産管財人がついて手続を進める管財事件か、破産管財人がつかない同時廃止事件かによって掲載される内容が異なります。ちなみに、「廃止」というのは、破産手続の終了を意味すると考えてください。
まずは、開始決定が出た時点での内容を見ていきましょう。
【管財事件の場合】
項目 | 記載される内容 |
---|---|
事件番号 | 令和〇〇年(フ)第〇〇〇号 |
住所 | 住所が記載されます。 |
氏名 | 債務者 〇〇 〇〇(旧姓〇) |
決定年月日時 | 令和〇年〇月〇日午後〇時 |
主文 | 債務者について破産手続を開始する。 |
破産管財人 | 弁護士 〇〇 〇〇 |
破産債権の届出期間 | 令和〇年〇月〇日まで |
破産状況報告集会・一般調査・ 廃止意見聴取・計算報告・ 免責審尋の期日 | 令和〇年〇月〇日午前(午後)〇時〇分 |
免責意見申述期間 | 令和〇年〇月〇日まで |
裁判所名 | ○○裁判所○部(裁判所によって異なります) |
【同時廃止事件の場合】
項目 | 記載される内容 |
---|---|
事件番号 | 令和〇〇年(フ)第〇〇〇号 |
住所 | 住所が記載されます。 |
氏名 | 債務者 〇〇 〇〇(旧姓〇) |
決定年月日時 | 令和〇年〇月〇日午後〇時 |
主文 | 債務者について破産手続を開始する。 本件破産手続を廃止する。 |
理由の要旨 | 破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する。 |
免責意見申述期間 | 令和〇年〇月〇日まで |
免責審尋期日 | 令和〇年〇月〇日午前(午後)〇時〇分 |
裁判所名 | ○○裁判所○部(裁判所によって異なります) |
続いて、免責決定が出た時点での掲載内容です。
【管財事件の場合】
項目 | 記載される内容 |
---|---|
事件番号 | 令和〇〇年(フ)第〇〇〇号 |
住所 | 住所が記載されます。 |
氏名 | 破産者 〇〇 〇〇(旧姓〇) |
決定年月日 | 令和〇年〇月〇日 |
主文 | 本件破産手続を廃止する。 |
理由の要旨 | 破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する。 |
主文 | 破産者について免責を許可する。 |
裁判所名 | ○○裁判所○部(裁判所によって異なります) |
廃止決定と免責許可決定の日付が異なる場合は、まずは、廃止決定の内容が掲載され、その後、免責許可決定の内容が掲載されます。
【同時廃止事件の場合】
項目 | 記載される内容 |
---|---|
事件番号 | 令和〇〇年(フ)第〇〇〇号 |
住所 | 住所が記載されます。 |
氏名 | 破産者 〇〇 〇〇(旧姓〇) |
決定年月日 | 令和〇年〇月〇日 |
主文 | 破産者について免責を許可する。 |
裁判所名 | ○○裁判所○部(裁判所によって異なります) |
裁判所によって、掲載内容について異なる場合があります。
官報は官報販売所や取扱書店で購入できるほか、図書館でも閲覧できます。またインターネットで直近30日分の官報を無料で閲覧することができ、それ以前の官報も有料で閲覧することができます。
インターネット版官報は以下のリンクよりご覧いただくことができます。
https://kanpou.npb.go.jp/
官報の号外のなかの公告というところに掲載されます。公告の諸事項には、裁判所の破産、免責、再生関係という項目があり、そちらに住所や氏名など具体的な内容が掲載されます。
自己破産の手続では、申立時に官報に掲載するための官報公告費がかかります。ホームワンでは、官報公告費は着手金に含まれます。自己破産の費用について、詳しくは以下のページをご覧ください。
普通の人が官報をチェックすることはまずないと思われますが、経済的信用性が求められる職業や、破産による資格制限のおそれがある職業では、官報をチェックしている可能性があります。
例えば、下記のような職業が官報をチェックしているといわれています。
また、これらのほかにも、闇金業者も官報をチェックしているといわれています。
自己破産した人は、信用情報機関に破産の事実が登録されるため(いわゆるブラックリスト)、しばらくの間、借入の申し込みをしても審査に通らず、銀行や貸金業者からお金を借りることができなくなります。 そこで、闇金業者が官報をチェックし、銀行等から借入ができなくなった人に対し、高い金利でお金を貸し付けようとしているといわれます。
自己破産をすると、資格制限を受ける職業があります。弁護士・公認会計士・生命保険募集人・宅地建物取引士・警備員など、人の財産にかかわる資格については、手続中は資格を使用した仕事ができなくなります。免責許可が確定すると資格制限は解除されますが、資格制限を受ける職業の方については、官報に掲載されるよりも前に、勤務先などに自己破産のことを説明しなくてはならないケースがあることに注意しましょう。なお、仕事のために資格が必須である場合、個人再生などの自己破産以外の手続を検討する必要があります。
2019年には、官報に掲載された破産者に関する情報をGoogleマップ上に転載する「破産者マップ」というサイトが現れて社会問題となりました。結局、個人情報保護委員会が「破産者マップ」に対して行政指導を行ない、「破産者マップ」は閉鎖されましたが、以降も類似サイトが現れています。
このような事態に対して、2020年に個人情報保護法が改正され(2022年4月1日施行)、「個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない」と定められました。 その具体例として、官報に掲載されている破産者情報を、「破産者マップ」のようなかたちでデータベース化してインターネット上で公開する場合が想定されており、今後は個人情報保護法により破産者情報の保護が図られるものと思われます。
また、インターネット版官報には、利用に際し「営利を目的として利用する行為」「第三者の権利・利益を侵害する一切の行為」「法令に違反する行為」「検索ロボットやクローラ等によるデータ収集行為」「不正アクセスを試みる行為、その他サイトの運営を妨害する行為」を行わないよう注意が記載されています。
自己破産をすると、官報に破産をした事実や名前・住所などが掲載されますが、勤務先が定期的に官報をチェックしているような会社でない限り、自分の周りの一般の方が官報を見ることはまず考えられません。
現実的には、官報に自己破産をした事実が掲載されたとしても、そのことから自分の周囲の方に自己破産を知れてしまう可能性は低いといえるでしょう。