借金を債務整理する場合、大きく分けて自己破産・個人再生・任意整理という3つの方法があります。
債務整理は、それぞれの方の借金の状況に応じた最適な手続きを選ぶべきですが、自己破産に関して誤ったイメージを持っていて、「自己破産は考えていない」と最初から検討をしない方が多くいらっしゃいます。
確かに、「自己破産」というと悪いイメージがあるようにも思います。しかし、世間一般の自己破産に対するイメージには誤解も多く含まれています。例えば、選挙権がなくなるというのは本当なのでしょうか?自己破産には、一定期間、借り入れができなくなるなどのデメリットがあるのも確かです。しかし、債務が免除される、つまり借金がゼロになるという大きなメリットもあります。ここでは、自己破産に関する間違った情報と本当のデメリット、そして、メリットについて詳しく解説します。ご自身の自己破産の情報が正しいかどうか確認していただき、何かわからないことがあれば、お気軽にご相談ください。
まずは自己破産のデメリットを正しく理解するために、代表的なデメリットの誤解について説明します。
選挙権は、満18歳以上の日本国民に与えられた権利です。自己破産したとしても、選挙権がなくなることはありません。
公的年金は、差押え禁止債権となっているため、自己破産の手続中であっても、問題なく受け取れます。また、自己破産をしたことで、将来年金が受け取れなくなるというようなこともありません。
自己破産したとしても、戸籍や住民票に載ることはありません。ちなみに、戸籍や住民票とは違いますが、本籍地の市町村が管理している「破産者名簿」というものがあります。
これは、その人が破産者でないことを示す身分証明書を発行するために利用される名簿で、自己破産をしたけれども免責不許可になったなどの、ごく例外的な場合にのみ掲載されます。
自己破産をしても、ほとんどの場合では破産者名簿に掲載されることはありません。
生活保護の受給をしていても自己破産をすることは可能です。また、自己破産をしたことで生活保護が受給できなくなるということもありません。
過去に自己破産していると、生活保護が受けられないと思われる方がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
生活保護は、健康で文化的な生活を保障するためのものであり、自己破産していても、生活をするために必要であれば生活保護を受給することができます。
破産申立前に回収した過払い金は、弁護士費用や免責されない税金等の支払いに使うことができますし、99万円以下の現金であれば、原則として、そのまま持ち続ける事が可能です。
ただし、過払い金の回収の時期や金額、破産手続きの申立のタイミングによっては、手元に残すことができずに処分対象となることもあるので注意が必要です。
もし過払い金が発生していそうな貸金業者がある場合、既に完済していたとしても、必ず事前に申告するようにしてください。
破産を理由に解雇されることは、基本的には考えられません。
ただし、破産による資格制限を受ける職業(例えば生命保険外交員など)についている場合には、会社との雇用契約で解雇事由に該当する可能性はあります。その場合には、個人再生手続など、自己破産以外の債務整理の方法を検討することも必要です。
また、会社に破産した事実がバレないか不安に思われる方も多いのですが、会社から借入(給与の前借など)をしていたり、会社が官報をチェックしたりする業種でない限り、破産をしたことが会社に伝わることはまずありません。
自己破産をしたことでパスポートの取得ができなくなるとか、持っているパスポートが無効になるということはありませんので、海外に行けなくなることはありません。
注意点として、破産手続を進めている間、破産管財人が選任されている場合には、海外に行く前に裁判所の事前許可が必要になります。
仕事のための出張であれば問題はないのですが、単に遊びのための旅行だと許可されない可能性があります。また、破産手続申立前でも、遊びのための海外旅行となると、浪費をしたと判断されて破産手続で不利益が生じる可能性があります。
破産をしたことだけで賃貸住宅の契約ができなくなることはありませんが、信用情報機関に破産の事実(事故情報)が登録されることにより、家賃保証会社の審査が通らず、結果として契約ができなくなる可能性はあります。
その場合は、保証会社をつけないで契約ができる物件に変更したり、他の保証会社で審査を試したりする必要があります。
ここまで説明してきたデメリットとして誤解されやすいポイントをおさえたうえで、自己破産すると実際にどのようなデメリットがあるか見ていきましょう。
信用情報機関に、自己破産をしたという記録(事故情報・異動情報)が、5~10年間は掲載され続けます。この記録が残っている間は、クレジットカードやローンなどを新たに契約することは難しくなります。
自己破産は、任意整理や個人再生と違い、一定以上の財産があれば処分(売却等の現金化)をして、債権者への配当にあてる必要があります。
99万円を超える現金は債権者への配当にあてる必要があります。また、現金以外で資産価値が20万円を超える資産(例えば、預貯金や自動車・バイクなど)は原則として、処分して現金化し、債権者への配当にあてられます。
価値が20万円に満たない資産は、処分の対象とはならず、そのまま保持することができます。ただし、株式などの生活に必要のない資産は、20万円以下でも処分の対象とされることがあります。
なお、家具・家電・衣類など、生活するため最低限必要とされるものは差押禁止財産として保護されます。
自動車やバイクなどをクレジット(立替金)契約で購入したもので、まだ支払いが終わっていないものについては、価値に関わらず、原則、クレジット会社によって引き揚げられ、返済にあてられてしまいます。
これは、所有権留保といって、借り入れた立替金の支払いが終わるまでは、その物の所有者をクレジット会社に留めておくという担保契約がされているためです。
なお、契約の内容によっては引揚げを拒むことができる可能性もありますので、個々のケースについては弁護士に相談してください。また、古い中古車や事故歴がある車など、あまりにも市場価値が低いような場合は、引揚げの費用で赤字になる可能性があるため、クレジット会社が引揚げをせずに、そのまま保有することができる場合もあります。
生命保険などの保険については、自己破産をしても強制的に解約されるわけではなく、そのまま加入し続ける事ができますが、解約返戻金(解約したときに戻ってくるお金)が20万円以上の場合、債権者に配当すべき資産と見なされて処分対象になります。その場合、保険を解約したうえで、解約返戻金を債権者への配当にあてることになります。
なお、高齢や持病など特別な事情があり、解約すると今後保険に加入することが困難で、将来の生活保障に支障を来たすような場合は、20万円以上の解約返戻金が発生する保険でも加入し続けることが認められる場合がありますが、その代わりに、解約返戻金と同額の金額を現金で支払う(組み入れる)ことを求められるのが通常です。
現在勤務中の会社からの退職金(支給見込額)を8分の1にした金額が20万円以上の場合は、配当すべき資産とみなされ、処分の対象となります。なお、裁判所の運用によっては、他の財産と合計して99万円までであれば、処分の必要がないとされることもあります。
実際には、退職前に退職金を受け取ることは難しく、退職金を受け取るためだけに退職させるようなことはできないため、破産手続中に、退職金の8分の1相当額の現金を毎月の給与などから積み立てて、それを代わりに債権者への配当にあてることになります。
破産手続中は、他人の財産にかかわる資格について、資格の制限(欠格事由)を受けることがあります。また、会社の取締役など、破産により委任契約が終了するものもあります。
弁護士、司法修習生、検察審査員、弁理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、行政書士、中小企業診断士、通関士、宅地建物取引士、旅行業務取扱管理者、公証人、簡易郵便局長、商工会の役員、証券取引外務員、商品投資販売業、証券業、投資顧問業、貸金業、割賦販売あっせん業者、質屋、生命保険募集人及び損害保険代理店、一般労働者派遣事業者、旅行業者、警備員、警備業者、建設業、建築士事務所開設者、風俗営業を営もうとする者、風俗営業の営業所管理者、一般廃棄物処理業者、卸売業者、調教師、騎手、代理人、後見人、後見監督人、保佐人、補助人、遺言執行者、 等
官報とは、国が発行している新聞のようなもので、法律が制定された場合などに、それを公告するものです。 自己破産をすると、官報に手続内容や名前・住所などが掲載されるため、官報をチェックすれば破産をした事実が知られてしまいます。
とはいえ、一般の方が官報を見ることはまずありません。勤務先の会社が定期的に官報をチェックしているようなところでない限り、現実的に、官報に公告されることによって、周囲の方に自己破産をしたことが知られてしまう可能性は低いといえます。自己破産の申立を行ない、破産手続が開始されると、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送され、その内容をチェックされます。これは、未申告の債権者がいないか、隠している財産はないかなどを破産管財人が調べるためです。
ちなみに、自己破産でも同時廃止手続という簡単な手続で進めることができる場合、そもそも破産管財人がつかないため、郵便物の転送もありません。
自己破産をすれば、原則、その時点での債務(借金)はすべて支払いを免除されます。このことを免責といいます。しかし、そもそも免責されない性質の債務や、免責自体が認められないケースもあることに注意が必要です。
税金を滞納している方が自己破産した場合、税金は非免責債権とされて支払い義務が免除されないため、破産手続後も支払いをする必要があります。税金の納付が難しい方は、早急に役所に支払いの相談に行かれることをおすすめします。
また、破産前に離婚していて養育費を支払っている場合、滞納している養育費や、将来の養育費について、自己破産しても支払い義務が免除されることはありません。
このような非免責債権には以下のようなものがあります。
自己破産をしたからといって、自動的に免責が認められるわけではありません。裁判所が免責許可の決定をすることで、最終的に免責が認められます。
免責許可の決定は、破産法が定める免責不許可事由に該当しなければそのまま認められますが、免責不許可事由に該当する場合には、裁判所が選任する破産管財人が事情の調査をしたうえで、裁判所の判断で免責が認められるかどうかが決まります。
例えば、ギャンブルが原因で借金したとか、ブランド品など高額な買い物で借金をしたといった場合には、免責不許可事由に該当します。
主な免責不許可事由としては以下のようなものが挙げられます。
もし免責不許可事由に該当したとしても、そのことを真摯に反省し、誠実に生活再建のために破産手続に取り組むことで、破産管財人が事情を裁判所に報告して、最終的には裁判官の判断により免責を認められるのが通常です(裁量免責と言われます)。
例えば、パチンコで借金を増やしてしまったとしても
という姿勢を示し、そのことを破産管財人や裁判所に説明ができれば、ほとんどのケースで免責が認められています。免責が認められなかったケースとしては、破産管財人に噓の説明をしたとか、裁判所に出頭しなければならない日に無断で欠席したといった、真摯な反省が認められない不誠実な場合がほとんどです。
自己破産の手続をして、裁判所から債務の支払義務が免除されると、その時点でのすべての債務を支払う必要がなくなります(税金や養育費等の非免責債権は別です)。
つまり、借金がゼロになるということです。当然、貸金業者からの督促や取り立てもなくなります。借金が無くなることで、今後の生活の再建への道筋を考えることができ、借金の苦しみから解放され、人生をやり直すことができます。
自己破産をしたからといって、すべての財産を失うわけではありません。裁判所が定める基準を超えない財産(99万円以下の現金や20万円以下の預貯金など)は手元に残すことができます。
また、テレビや洗濯機・冷蔵庫といった家財道具まで処分されてしまうと、たとえ借金が免除されても、その後の生活が成り立たなくなってしまうので、生活必需品は原則として処分の対象外となっています。
なお、破産する本人以外の財産は処分の対象にはなりません。例えば、本人が利用していても本人以外の家族が所有している自動車や、被保険者が本人でも保険契約者は家族であるような生命保険などは、処分の対象にはなりません。
自己破産の手続で破産管財人が選任される場合、破産手続中は、破産者の財産のうち債権者に配当すべきものを破産管財人が管理することになります。
この破産管財人の管理下におかれる財産を破産財団といい、破産管財人が財産の管理や処分をする権利を持つことになります。破産管財人は、破産財団を換価(現金化)して、債権者に配当します。
原則としては、破産者が所有する一切の財産が破産財団に含まれることになっていますが、本当にそうしてしまうと日常生活すら送れなくなるため、生活に最低限必要な財産は破産財団とはしないとされています。これを自由財産といいます。
自由財産とされる範囲は、破産手続前から保有している99万円以下の現金と差押禁止財産(債務者の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、日用品など)です。 また、破産手続開始後に新たに取得した財産(新得財産)も自由財産になります。
法律で定められている自由財産は対象となる範囲が狭いため、例えば預貯金ですら法律上は自由財産の範囲外です。
しかし、現在の社会で、銀行口座も持たずに現金だけで生活をしている人はまずいないでしょう。そのため、本来は自由財産ではないものについても、一般的に生活に必要不可欠なものであれば、自由財産の範囲の拡張を求めることが認められています。
自由財産の拡張は、裁判所ごとに基準が定められているほか、個々のケースでの破産管財人の判断により決められます。一般的に拡張が認められるのは次のような財産です。
これに対して、株式のような生活に必要のない財産は、自由財産の拡張が認められない傾向にあります。また、ごくまれに、破産者が非常に高齢であるとか、非常に重い病気を抱えているとかの理由により、生活保障のために通常よりも広く自由財産の拡張を認める必要があると判断されるような場合には、99万円を超える現金等についても自由財産の拡張が認められることもあります。