携帯電話は、電話での通話だけでなく、メールやLINEをはじめとした連絡手段として現代の生活に欠かせないものです。
自己破産をしたとしても、そのために携帯電話が一切使えなくなるということはありませんが、「いま使っている携帯電話をそのまま使い続けられるか?」となると答えは簡単ではありません。
携帯電話の契約内容が複雑であることを反映して、携帯電話と自己破産の関係も複雑なものになっています。ここでは、自己破産をした場合に携帯電話の利用にどのような影響が出るのか、主に考えられるポイントを解説します。
自己破産をしたことで携帯電話の利用に影響が出るのは、携帯電話に関する料金の支払いができなくなる場合です。当たり前の話ですが、料金の支払いができないと携帯電話は利用できなくなります。料金の支払いが問題なく続けられるのであれば携帯電話の利用も問題なく続けられます。携帯電話に関する料金にはいくつかの種類がありますが、大まかには次の3つに分けることができます。
そこで、この3つの料金について滞納や未払があるとどうなるのか、自己破産との関係を順番に解説していきます。
毎月の携帯電話料金(通信料金)を支払えずに滞納している場合、破産手続に含めることで滞納料金を支払う必要はなくなりますが、契約している電話回線は料金未納で強制解約されてしまいます。強制解約をされたことで違約金が発生しても、自己破産をするのであれば支払う必要はなくなります。
一方で、もし強制解約を避けて携帯電話を使い続けたいのであれば、携帯電話料金の滞納分を支払わなければなりません。ただし、自己破産を弁護士に依頼したあとに滞納料金を支払うことには法律上の問題もありますので、個別に対応を相談していただくことが必須です。
携帯電話を強制解約された場合には、携帯電話会社内での取扱いにより、いわゆる「社内ブラック」と呼ばれる状態になってしまい、同じ携帯電話会社で新規の契約ができなくなることがあります。
この場合には、他の携帯電話会社で契約をするなどの対応が必要ですが、今は格安SIMやプリペイドSIMなども普及しているので、携帯電話回線の契約自体が一切できなくなるケースは考えにくいです。
携帯電話のブラックリストとは?
携帯電話にもクレジットカードなどと同様にブラックリストがあると聞いたことがある人もいるかもしれません。例えば、NTTドコモで携帯料金を滞納して強制解約になると、携帯電話ブラックリストに載せられてしまい、auやソフトバンクでも新規の契約ができないというような話です。
実は、銀行や消費者金融、クレジットカード会社などが信用情報機関(JICC、CIC、全銀協(KSC))を通じて個人の信用情報(いわゆるブラックリスト)を共有しているのと同じように、携帯電話会社も利用者の情報を共有しています。 それが、TCAとTELESA(テレサ)です。
いずれも「不払者情報の交換」と書かれていますが、簡単にいうと、契約解除後に料金不払いのある人をブラックリストとして共有しているものです。 ただし、「自己破産等により免責が決定している方」は含まないとされていますので、破産手続が無事終了すれば情報共有から外れることになります。
携帯電話会社からスマートフォンなど携帯電話端末(機種)を分割払いで購入していて支払いが残っている場合は、少し取扱いが難しくなります。
機種の分割購入も実質的には借入と同じでローン契約(割賦販売、クレジット契約)ですから、自己破産をする場合には、クレジットカードや消費者金融などと同じように携帯電話会社を債権者(借入先)として扱い、弁護士に自己破産の依頼をした後は分割料金の支払いは止める必要があります。
ところが、機種の分割代金は毎月の携帯電話料金(回線料金)とあわせて支払いをしているのが通常ですから、機種の分割代金だけを止めることは簡単にはできません。携帯電話会社に依頼して、回線料金と機種代金を分離してもらい、そのうえで機種代金の支払いを止める必要があります。
現状では、このような支払い分離の取扱いをしてもらえるかどうかは携帯電話会社でも対応が分かれており、どちらかというと通信料金と機種代金(端末料金)の支払いの分離には応じてくれないケースが多いです。
ただ、これに関しては、昨今ニュースでも取り上げられているように、携帯電話料金の引下げに向けての政府の対策や、電気通信事業法の改正で通信料金と端末料金の完全分離が求められるようになったことなどから、今後は携帯電話会社の対応も柔軟になっていくかもしれません。
機種代金の分割支払いを滞納すると、携帯会社に携帯電話を回収(没収)されるという話を聞いたことがあるかもしれません。 そういうことがまったくないわけではありませんが、実はこれはあまり正確な情報ではありません。
そもそも、なぜローンの支払いを滞納したときに、ローン会社が商品を回収することができるのでしょうか。 それは、ローンの支払いが終わるまでは、販売した商品の所有権をローン会社が持ち続けていて、支払いが終われば買主に所有権を移転するという契約がされているからです(所有権留保契約)。 ローンの支払いができないのであれば、所有者であるローン会社に商品を返すように請求されるという仕組みです。
ところで、現在の3大キャリアの契約約款を見てみると、それぞれ次のように定められており、いずれも契約した商品を手元に受け取った時点で所有権が買主に移転するとされています。
第6条(指定商品の引渡しおよび所有権の移転)
「・・・・・・指定商品の現実の引渡しが完了したときに指定商品の所有権が当社から契約者に移転するものとします。」
第5条(商品の引渡し及び所有権の移転)
「・・・・・・商品の現実の引渡しが完了したときに商品の所有権が当社から購入者に移転するものとします。」
第2条(商品の引渡しおよび所有権の移転)
「商品は、本契約成立後、直ちに購入者に引渡され、引渡し時に所有権が移転するものとします。」
このように、携帯電話会社の場合、商品が手元に届いた時点でローン残高があっても所有権が移転すると定められていることが多いため、機種代金を滞納しても携帯電話を回収(没収)されることはあまり考えにくいのです。
ただし、携帯電話会社ごとに契約内容は異なりますし、同じ携帯電話会社でも契約をした時期によっては異なる内容の契約になっている場合もあるため、絶対に回収されないというわけではありません。回収されるケースはあまり考えにくいという程度に理解してください。
機種代金の分割払いを滞納すると、携帯電話の端末(機種)自体が使えなくなると説明されることがあります。
この説明は、機種代金の分割払いを滞納すると携帯電話会社からネットワーク利用制限をかけられてしまい、機種自体が通信不能にされることから出てきたものだと思われます。
例えば、NTTドコモの場合、「代金債務(分割支払金や、端末割引に伴う違約金等の債務を含む)の履行がなされていない、またその恐れが高い携帯電話機」について、ネットワーク利用制限として「携帯電話機の音声通話やパケット通信などの利用を制限する」としています。
ネットワーク利用制限をかけられた端末を俗に「赤ロム」ということがあります。機種の分割払いを含めて自己破産した場合には、一度「赤ロム」になるものの、破産免責が確定してしばらくすると「赤ロム」が解除されるということもあるようです。自己破産をすると分割代金の支払い義務がなくなるので、料金の滞納がなくなったという取扱いなのかもしれません。
このネットワーク利用制限に加えて、以前は、特定のキャリアで購入した携帯電話は、そのキャリアでしか利用できないという「SIMロック」が掛けられていたため、機種代金の分割払いを滞納すると、事実上、その携帯電話が使えなくなるという現象が起きていました。 これが「機種代金を滞納すると携帯電話自体が使えなくなる」という説明につながっていたのではないかと思われます。
現在は、どの携帯電話会社でも利用ができるSIMフリー端末も多く販売されていますし、携帯電話会社から機種を購入する場合でも、2015年5月にはSIMロック解除が義務付けられ、2021年10月からはSIMロック自体が原則禁止されています。 そうすると、昔とは違い、機種代金を滞納すると携帯電話自体が使えなくなるという説明は、実際にはあまり当てはまらないのかもしれません。
ネットショッピングでキャリア決済を利用したり、ゲーム課金でキャリア決済を利用したりして、数万円の請求を受けたが支払いができないというようなケースです。
キャリア決済の支払いは通信料金の支払いとまとめられていることが多く、支払いができないのであれば携帯電話回線自体も強制解約となるのが一般的です。キャリア決済と通信料金の支払いを分離して、通信料金の支払いは継続して回線を維持しつつ、キャリア決済は支払わないようにするという対応は、どの携帯電話会社でも難しいように思われます。
この場合、回線契約を継続するには、キャリア決済の滞納を解消しなければなりません。こちらも、滞納している通信料金を支払うときと同様に、自己破産を弁護士に依頼したあとに滞納料金を支払うことには法律上の問題がありますので、個別に対応を相談していただくことが必須です。
また、キャリア決済の利用は、自己破産の手続にも大きな影響があるため、特に注意が必要です。 キャリア決済は、クレジットカードと同じように、利用(決済)が先で代金が後払いになるため、自己破産の手続きでは債務(借入)とみなされます。
もし、自己破産の手続き中にキャリア決済を利用すると、手続き中に新たに借入をしたものとみられて裁判所や破産管財人から指摘を受けますし、内容が浪費に該当するようなものだと免責が認められなくなるおそれがあります。 キャリア決済は便利ですが、自己破産をする場合には利用をしないように気をつけてください。
これまでは携帯電話の料金そのものについて解説をしてきましたが、料金の支払方法も問題になります。 携帯電話料金をクレジットカード払いにしている場合には、自己破産をするとクレジットカードが利用できなくなりますので、携帯電話料金の支払いもできなくなります。
例えば、dカード(NTTドコモ)やau PAY カードなど、携帯電話料金をカード払いにするとポイント還元率が高くなることから利用をしている方も多いかと思います。 この場合には、クレジットカードの利用ができなくなる前に、携帯電話料金の支払方法を銀行口座の引き落としやコンビニ払いなど他の方法に変更して支払いを継続できるようにする必要があります。
これまでは自己破産の話を中心にしてきましたが、債務整理の方法は自己破産だけでなく、個人再生や任意整理という方法もあります。 このうち、個人再生は自己破産と同じく裁判所での債務整理手続のため、個人再生をした場合の携帯電話の取扱いは、ほぼ自己破産と変わりません。裁判所を使う手続の場合、すべての債権者(借入業者)を対象に手続をすることになるためです。
一方で、任意整理は裁判所を使わない債務整理ですので、どの債権者(借入業者)を債務整理の対象にするか選ぶことができます。 そのため、任意整理では、携帯電話料金に関わる債権者を手続の対象から外すことで、携帯電話に影響を及ぼさずに債務整理をすることができます。 ただ、その場合でも任意整理をしたことで信用情報機関に登録されてブラックリストの扱いになることには変わりがありませんので、新しい機種を分割で購入することは難しくなります。
自己破産と携帯電話の関係についてケースごとに分けて解説をしてきましたが、結論としては、自己破産をしても携帯電話が利用できなくなるわけではありません。 問題は「いま使っている携帯電話をそのまま使い続けられるか?」という点ですが、これはそれぞれの状況次第ということになります。 もし、いま使っている携帯電話をそのまま使い続けられないとなれば、例えば次のような対応をして別の携帯電話を使うことになります。
いま使っている携帯電話回線が強制解約された場合、別の携帯電話会社で新たに契約をすることになります。今はMVNO(格安SIM)など3大キャリア以外の選択肢が豊富にあるので、料金未納で強制解約されたとしても、そのあと携帯電話回線の契約自体が一切できなくなるということは考えにくいです(契約できる会社を探す必要はあります。)。
また、利用している携帯電話番号を引き継ぎたい場合、強制解約される前にMNP(モバイルナンバーポータビリティ)を利用するなどして、番号を変えずに新しい携帯電話会社と契約することも選択肢になります。
もし手持ちの携帯電話の機種自体が使えなくなるようであれば、現金一括で購入できる金額の格安スマホや中古スマホなどを購入して対応することになります。
ここまで自己破産と携帯電話の関係について解説をしてきましたが、携帯電話の契約は、政府主導での携帯電話料金の引下げや、分かりにくい料金プランを改善するためのガイドラインの制定など、頻繁に状況が変化しており、携帯電話会社の対応もそれに応じて変化を続けています。
債務整理を考えていて自分の使っている携帯電話がどうなるのか心配がある方は、それぞれの方のご事情をお伺いしてアドバイスをいたしますので、是非お気軽にご相談ください。