自己破産を検討している方の中には、「自己破産したら家族に迷惑をかけるのではないか?」「家族に借金を肩代わりさせることになったら大変」など、心配されている話をよく聞きます。
ここでは、そんな不安を解消するために、自己破産が家族に与える影響や、自己破産する際の注意点、家族に知られずに手続きできるのか、というテーマで解説しています。
自己破産によって処分の対象となるのは、破産者本人を名義人とする、価値が20万円以上の財産です。家や車などのかたちのある資産のほか、貯金や保険などの金融資産も対象に含まれます。現金については、手続きの内容によって、残せる金額が異なります。これらを失うことによる家族の影響について解説します。
持ち家や土地などの不動産がある場合は原則、処分しなければならなくなります。売却先がみつかるまでは住むことができますが、その間に転居先などを探す必要があります。
ご家族は引っ越しを余儀なくされることになりますので、転居先によっては、お子さんが転校することになったり、転居により通勤できない場合は、仕事を変えざるを得なくなる、などの影響が考えられます。 ただし、大幅なオーバーローン(不動産の価値より、借金の額が大きく、売却しても借金が残ってしまう場合)の場合は、不動産を処分しなくても手続きができる場合もあります。
評価額が20万円以上の車は、処分する必要があるため、手元に残すことはできません。そのため、ご家族にとっては、子供の送迎や車での通勤ができなくなる、などの影響が考えられます。
ただし、通院や介護で、自動車を使用するやむを得ない理由がある場合、裁判所の判断によっては車を手元に残せる場合もありますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
家族カードは、カード契約者の契約を元に、契約者の家族に対して発行されるカードです。契約者が自己破産の手続きを行うと、クレジットカードは強制解約となってしまうため、破産者の契約を元に発行された家族カードも利用できなくなってしまいます。
逆に、契約者がご家族で、ご自身がその家族カードを利用している場合には影響はありません。ただし、ご家族の方に収入がないような場合には、ご自身の収入から返済されていると判断されてしまう可能性があります。その場合、一部の債権者だけに偏った返済※と見なされ、最悪の場合、借金が免除されなくなる可能性があるため、注意が必要です。
偏頗弁済(へんぱべんさい)といいます。
20万円以上の預金や、解約返戻金が20万円以上になる保険も処分の対象になります。
ただし、生命保険の解約返戻金が20万円以上の場合でも、自由財産として認められれば、処分しなくていい場合があります。
また、現時点で解約返戻金が20万円以上の場合でも、「契約者貸付」という制度があり、これを利用して財産として扱われる解約返戻金の額を、20万未満に抑えられる場合があります。
「契約者貸付制度」は、解約返戻金の一定の範囲内で、保険会社から貸付を受けることができる制度で、貸付を受けた分は、解約返戻金の総額から差し引いて計算されるのが通常です。
例えば、生命保険の解約返戻金が50万円の場合、このままでは破産手続き時の処分対象になってしまいます。しかし、契約者貸付制度を利用して、そのうちの35万円を借りていた場合、手続き時の解約返戻金は、50万円から35万円を差し引いた15万円と計算され、処分の対象から外れて解約をする必要がなくなります。
ただし、契約者貸付で現金化した現金は、弁護士費用や滞納している税金などの支払いに充てるか、現金のまま保有しておく必要があります。そのため、必ず弁護士に相談してから契約者貸付を受けるようにしましょう。
学資保険は、仮に子供名義で組まれていたとしても、実態として親が積み立てているものとみなされます。そのため、子供名義で組まれている学資保険は本人の財産として扱われ、処分の対象になることがあります。子供名義だと申告しない場合も多いですが、弁護士に相談するようにしましょう。
まず、自己破産をして処分しなければならない財産は、「破産手続き開始決定の時点で、債務者(破産者)本人が所有している財産」に限られます。
つまり、名義が本人の財産は、資産価値などの一定の条件に基づいて処分しなければなりませんが、名義が家族であれば、車や不動産のような高額な財産であったとしても、処分されることはありません。
自己破産をすると、破産者本人の職業には制限がかかります(詳しくは自己破産のメリット・デメリットをご覧ください)。しかし、この制限は家族には及びませんので、家族の現在の仕事や、子供の将来の職業選択にも影響はありません。
親が自己破産をしていると、その子供は法律的に結婚できない、ということはありません。また、自己破産は戸籍や住民票には記録されませんので、相手の家族が市役所などを通じて、あなたの自己破産を知ることはありません。
ただし、相手の家族が興信所などに依頼して身辺調査を行なった場合、官報の履歴を検索してあなたが破産したことを知られるおそれがあります。
「自己破産をすると家具や家電をすべて取り上げられてしまう」と心配されている相談者の方も多いのですが、これらの財産は法律によって守られていますのでご安心ください。
自己破産の手続きで、処分されない財産のことを「自由財産」といいますが、家具や家電は、自由財産の中の「差し押さえ禁止財産」という分類に当てはまります。
具体的を挙げると、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、ベッド、タンス、エアコン、パソコン等で、基本的には生活に必要不可欠な財産です。
ただし、1種類につき複数を持っている場合は片方が処分の対象になったり、20万円超の価値が見込まれるアンティーク家具は処分の対象になったりと、個別に判断されることがあります。
自己破産するかどうかをお悩みの方の中には、自己破産をした場合、家族が代わりに借金の返済を続けなければならなくなってしまうことを心配する方もいらっしゃいます。
しかし、借金はあくまで借り主と貸し主の間だけで有効な契約であるため、原則、ご家族に返済義務はありません。
ただし、家族が連帯保証人になっている場合は、返済義務が生じます。
家族が借金の連帯保証人になっている場合は、連帯保証人である家族に、借金の返済義務が発生します。
例えば、住宅ローンの連帯保証人に配偶者や両親がなっているケースがよく見られますが、この場合、自己破産をすることにより、破産者本人の借金は免除(免責)されますが、連帯保証人である配偶者や両親には返済義務が残る状態になります。
住宅ローンや奨学金のように返済額が大きい場合で、連帯保証人も支払が不能な状態であれば、同時に自己破産するケースもよく見られます。
処分の対象となるのは本人名義の財産だけ、という条件を考えると、破産前に家族に名義を変更すれば、処分を免れることができるように思えます。
しかし、処分の対象となる財産の名義を、自己破産前に他の誰かに変更することは、「財産隠し」とみなされ、自己破産が認められなくなる可能性があり、最悪の場合、罪に問われることもあります。
同様の理由で、知人に安く売却することや、離婚をして配偶者に財産分与することなども、「財産隠し」と判断される可能性がありますので、自己破産前に財産を移動するのは、控えたほうが無難です。
同居する家族に知られずに自己破産をすることは、非常に難しいと言わざるを得ません。なぜなら、手続き中から自己破産後の以下のような場面で、同居人に異変を気づかれてしまう可能性が高いからです。
これまで説明してきたように、自己破産をすると、持ち家や車を失う可能性があり、少なからず、家族へ影響が出てしまうことは避けられません。
債務整理には、自己破産以外にも、月々の返済額を減らす「任意整理」と、持ち家は残したまま大きく返済額を減らす「個人再生」という方法があります。これらの方法であれば、持ち家などの財産は失わずに手続きをすることが可能です。
自己破産するしかないと思って相談に来られて、結果的には任意整理や個人再生の方が適していた、という方も少なくありません。自分に最適な債務整理の方法は何なのか、気になった方は、是非、弁護士などの専門家にご相談ください。
債務整理、特に破産事件を数多く取り扱ってきた。これまでに破産申立を行なった件数は6000件以上。依頼人の利益を考えることを第一に、法律サービスをもっと身近なものにしていくことを目指す。東京弁護士会春秋会の一員として編集に携わった書籍に『実践 訴訟戦術-弁護士はみんな悩んでいる-』などがある。